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忙しいシェフ

 一日遅れの誕生日にメシでも、と友人が誘ってくれ、昨夜は近くのビストロへ。
 ここは小さなビルの一室の、テーブル4つのほんとに小さいビストロ。以前、ランチで着たきとが二度ほどある。ランチはパスタとコーヒーとか、ハンバーグとコーヒーといった簡単なメニューで、近所の奥様方が来て長っ尻をしていた。
 給料日あとの金曜日ということで、込んでいたらよそに行こうと思っていたが、誰もいなかった。いいのかね、こんな客足で、と人ごとながら心配になっちゃうよ。
 シェフがカウンターをはさんだキッチンから出て来てメニューをくれた。まずは飲み物を注文して、料理はゆっくり決めようと思い、水だお絞りだとばたばたしているシェフに声をかけた。
「えーと生ビールひとつと、ハウスワインの赤をグラスで」
 するとシェフが「まだ、待って」という。
 それから注文を取るメモを手にやってきて、
「はい」
 ランチの時もそうだったが、シェフがひとりきりで切り回しているのだった。夜になってもひとりらしい。注文にミスがないように、きちんとメモを片手に聞くことにしているとみた。
 それからは、ずべて、「ちょっと待って」で、シェフがなにか別のことをしているときは、ごく簡単なことも後回しにされるのである。一度にふたつのことはできない、しない人なのだ。
 でも、シェフはいそがしいのである。少しすると3人の家族連れもやってきて、飲み物や料理を注文するから、そのたびに、私たちの注文の料理にかかっているシェフは「ちょっと待って」というのである。全部で5人分の料理をひとりでささっとつくるのもけっこう大変だ。
 私たちは、サーモンのタルタル、バラ肉の煮込み、キャベツとアンチョビーのパスタ、パンを頼んだのだが、たった一人でパスタを茹で、そのあいだにタルタルをきれいに盛りつけ、煮込みをあたため、パンもあたため、テーブルにナプキンとカトラリーを並べ、その途中で家族連れのためにワインを出し、ステーキを焼き……だから、ほんと忙しい。
 なんだか、あれこれ言いつけるのが申し訳ない気持ちになる。
 パスタが来たので、取り分けようとしたが、取り分け用のお皿を頼むのも気の毒な気がして、空になったパンのお皿にとりわけたら、シェフがキッチンから飛び出してきた。
「それはこれ!」
 口数の少ない人で、そう言っただけで、花模様の皿を投げるように置いた。もう、取り分けちゃったんだし、このパン皿でいいんだけど、と思ったけれど、口数が少ないということはわりと大きなプレッシャーで、私はパン皿のパスタを花模様の皿に移し、パン皿を返した。パスタ、冷めちゃうんだけどね。
 よく見ると、花模様のお皿はケーキ皿。いいんだけど。
 食事はおいしかったけれど、このあとコーヒーを頼んだら、またシェフを忙しくさせてしまうと思って、コーヒーは別のところで飲むことにした。シェフはまだ汗だくで3人づれの注文を料理中だ。
「すみません、お勘定を」
 と、声をかけたら、キッチンから、
「パスタが茹であがったところだから、待って」
 待ちます待ちます。
 この規模の店で人を雇うのも大変なのだろうなあ、または、シェフが気難しくて人がいつかない? せっかちな気分のときはとても行けないが、そして私はおおむねせかせかしているが、おいしい、安い、いい店で、こういう店は生き残ってほしいと思う私であった。

本日のkuu
以上の通り。店のBGMはレコードによるシャンソンとジャズボーカル。
by kuunuu | 2008-11-01 23:07 | 食べ物


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